神谷直人が法科大学院を卒業し、司法試験に集中できるように、私は駅前のガールズバーで三年間、夜のシフトに入り続けた。
その後、直人は司法試験に合格し、司法修習を終えて弁護士登録をした。今では汐浜市にあるそれなりに規模の大きい総合法律事務所に勤め、企業法務や民事事件を中心に扱っている。地元でも少しずつ名前を知られるようになっていた。
私はとっくにガールズバーを辞め、汐浜駅東口にあるワインバーで働いていた。接客だけでなく、酒類の仕入れや取引先との調整、ワインの販売まで任されている。
あの夜、常連客の一人が酔った勢いで、私を倉庫へ続く従業員用の通路に追い込んだ。大河内という飲食関連会社の社長だった。横をすり抜けようとすると腰をつかまれ、壁際へ引き寄せられた。振りほどこうとした私の胸にまで手を伸ばし、もみ合ううちにブラウスのボタンが二つ飛んだ。
物音に気づいた店長が駆けつけ、ようやく大河内は手を離した。翌日、店長と一緒に防犯カメラの映像を確認し、該当部分を別に保存してもらった。警察から求められれば、映像も従業員の証言もすべて提供すると言ってくれた。