作品情報
短編
8,399文字
推理〔文芸〕
最終更新日:2024/03/31 20:22
「……ここに八角を入れ……味がしみるまで…………」
近くまで来て鍋を覗き込む生徒たちの前で、丸く切ったワックスペーパーに切り込みを入れて落とし蓋を作り鍋に入れる。
「これで一時間程煮込み、その後冷めるまで待ちます。さて…一時間何もせずに待つわけにいきませんね。…コチラに昨日から煮込んでおいたものがありますので、盛り付けのコツとお味見を………」
洋風と和風の皿を並べ、どちらでも美味しそうに見えるような盛り付け方を伝える。
「余白を意識して真ん中にこんもりと盛り付け、最後にバランスを見ながら八角を…花を散らすように乗せましょう。
うふふ…
私の夫は昔から八角を効かせた豚肉の角煮が大好きなんです。ちょっと喧嘩した日など、これを作ればすぐに仲直り、ラブラブです。愛の媚薬ですね。
皆さんの旦那様にも八角好きがいるかもしれませんね。…長く一緒にいると喧嘩をする事もあるかもしれませんが…媚薬だからといって庭に落ちている日本製スターアニスを料理に使ってはいけませんよ」
そう言うとクスクスと生徒から笑い声が漏れる。
「先生、私、今日拾って帰っても良いですか?」
年配の女性が声をあげる。
「ええ、いくらでも庭から拾って行って下さい。甘い誘惑に負けて下さい」
そう言うと生徒たちは一斉に笑った。
神木莉子の一人を除いて。
他県から来た神木は、このブラックなジョークの意味がわからないのだろう。
それでいい。
これは私から貴方へのメッセージ。
貴女はこれまでの罪を精算するのよ。