秋の気も息を潜めた曇天の下。その日は手指さえ霜が付くのではないかと思えるほど、酷く冷え込む一日だった。既に放課後を迎えた高校の校舎からは、生徒がさざ波のように校門の外へと流れ出ていく。堅苦しい勉学の時間からようやっと解放され、がやがやと賑わっていた一年Ａ組の教室からも、徐々に歓談する生徒達が散開していく。 「……」 　ごうんごうんと静かに唸る暖房機のみが存在を主張する教室の中。螢は席に腰を下ろしたまま、窓ガラスに額を寄せて外の様子を見下ろしていた。

2018年10月。昔からの夢だった看護師になって半年が過ぎた頃、恭花は1人の入院患者と出会った。 恭花に対して親しげなようでいてどこか距離のある態度を取るその患者の名は、花凪。 真っ黒な髪に真っ黒な瞳を持つ彼女は、ある日恭花に問い掛けた。どうして看護師になったのか、と。 看護師になるという夢を実際に叶えたいま、それを志した理由も忘れかけてしまっていた恭花だったが、花凪の問い掛けをきっかけに思い出していく。 古く錆び付いてしまっていた記憶と、既に色褪せてしまっていた思い出を。

高校1年生の初月陽司は、ある日誘拐の瞬間に遭遇した。迷いつつも助けた盲目の少女を病院にまで送り届けた帰り道、陽司は事件の現場で『Rose Gargen』と刻印された薔薇の花の形をしたペンダントを拾う。 少女の物ではないかと考えた陽司が次の日それを少女に手渡すと、少女は陽司に頼みごとをしてきた。 その頼みとは『ペンダントの持ち主を探してほしい』というもの。 ペンダントは少女の持ち物ではないが、少女は昔、そのペンダントの持ち主に会ったことがあるのだという。 何の手掛かりもなかったが少女の頼みを聞くことに決めた陽司は、ときには交友を育み、ときには悩み葛藤しながら、真実を求めて歩み始める。

　『北山の洞窟に住む民族は、不治の病を癒す学を持つ』。古書に記されたその言葉を見た双子の兄妹は、育ててくれたおじさんとおばさんを助けるために一縷の希望を信じて北山の洞窟へ。そうして２人が向かったそこには、たしかに存在していた。未知の学を持つ集落が。 　２つの世界が交わった時、そこに生じるのは争いか結託か。因縁を越えて新たな土地へ。 　 　――存在をかけた戦いへの道がいま、開かれる―― ※カクヨムにも投稿しています。