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作者:ほっこくのくわずいも/作品情報/Nコード:N9479FX
短編 |
會津八一のことで、私にも死んだおやじから二度や三度にきかないほど聞かされた話がありましてね。こんな話を聞いてたら年甲斐もなく自然とおやじの声を想いだしてしましまして、他人様にはお恥ずかしいが、どうぞ功徳だと思って聞いてください。
親父は左官屋を稼業にしていまして、その出来事があった時分は、ひとまわり上の長兄の下にくっついて梃子てこの真似事でもやらされていたんでしょう。
どこで会津先生とご縁を作ったのかまでは存じませんが、そうした職人気質のおじさんですから、へそ曲がりの文人先生と馬があったんでしょう。先様で何かと用事を作ってくれて、出入りさせてもらってたようです。
「つどつど頼まれた例のもの、玄関脇に置いてあるから帰りがけに持っていきなさい」
後片付けしてるおじさんの処にわざわざ部屋から出てきた先生からそう言われると、すぐにピーンといきたそうです。まだ何も触れていない巻いたまんまのまっさらなさらしに包んでくるんで大切に持ち帰ったんでしょうが、一番大切なのは、會津八一の書ではなく、會津八一から書をもらったことですから、開いて眺めるでも額装を言い付けるでもなく、しばらくは神棚に祀られっぱなしでした。
「おねだり」する輩は多かったんでしょうが、「情熱」の傾け方で手に入るってもんでもないでしょうから、そうした連中の中には、誰それが手に入れたなんて聞きつければ面白くない嫉妬から良からぬ鎌首がもたげたることもあったっていいます。
ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕キーワード: 日常 會津八一 半切の書 昔かたぎ おやじの供養 不器用な職人 ゴマ塩頭の純情 古書店の店主 悋気の虫 悋気の虫が静まるとき ガシガシ顔を洗う 達磨さんに固まる 最終更新日:2019/12/24 05:40 読了時間:約9分(4,448文字) 週別ユニークユーザ: 100未満 レビュー数: 0件 総合ポイント: 0 pt ブックマーク: 0件 評価人数: 0 人 評価ポイント: 0 pt |
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