ある夜、塔の一室から魔術師が消えた。失踪したのは国家最高位の宮廷魔術師サルカン。王族の教育から王家の秘事にまで関わる人物だ。現場の塔から立ち去る姿はなく何者かが訪れた形跡もない。残されていたのは嵐のような破壊の跡と床に刻まれた数行の文字だけ。それはモルダスが密かにが第二王女キャスロードの教師として選んだ人物の名だった。 魔術師の失踪に紛糾する宮廷はさておき、新任の教師が来ることを知った第キャスロードはこれ以上の授業の増加が我慢ならず着任の阻止と授業の妨害を企てる。 一方で教師に指名された当人はそんな状況など知る由もなかった。その男の名はクラン・クライン。街の外れの牧場で魔術師の真似事をして暮らす茫洋とした青年だ。だが、そのクラインにはかつての宮廷謀反と王女誘拐に関わる重大な秘密があった……。 かくしてわがまま放題の幼い王女と訳ありの新任教師の騒動は王家存続と封印れた魔術の暗部を巻き込んだ王都の騒乱に拡がって行く。