今生にてベルーガ・ゲルマニカと呼ばれる少女は観測出来る限り二つの人生を歩み、そのどちらもが世界に輝く功績を残したと言っても過言ではない。 一つ目の人生は、今からおよそ二千年前の世界を「虫の帝」として生き、多くの家族と呼べる同胞と共に人類の技術、その一つである魔導を組み上げ、天寿を全うした。 二つ目の人生は異なる世界にて、「龍血の勇者」として一つの世界を脅かす魔王の手から世界を救い、相討ちとなった。 偉大な二つの前世の代償なのか、はたまたそうであるべき運命だったのか。視力を失って生まれたゲルマニカは、目が見えずとも魔力があれば物事は視えるからと、魔導書を読み耽る幼年期を謳歌していた。 しかし今生の十二歳、彼女は二千年前の創設に関わったアストラエア魔導学園への入学許可を得た。複数の前世を持ち、魂の規格が通常の人類と異なる彼女は、二千年前の彼女と同じく創設者であり、それぞれの寮の名前となった三騎士の加護を受ける事はなく、アストラエアの加護を受ける。 入学式前、一人で時間を過ごしていた彼女は自分と同じ特異な魂と、自分の知らない異世界の前世を持つノクシャス・スパロウことノックスと出会い、その魂に惹かれ、寂しがり屋な自分に丁度良いとして彼を家族にしようと心に決めた。 学園生活が始まる前に、ゲルマニカは学則に縛られないあらゆる自由が与えられる「約束された自由の十三塔」の一つである「虫の塔」を開き、そこで同じ加護を与えられたノックスと共に学園生活を始める。 ノックスは日々慣れない魔導の練習に励む一方、ゲルマニカは記憶にある前世から老いて死ぬ事も、世界の為に身を擲つ事も不要だと判断し、早期に「成長する不老」へ至る事を決意した。 乗り越えなければならない事は多々あれど、それでも彼女は余裕を携える。自由に生きて、成長する不老となって新たな家族と世界を見て回る為に、魔導師ベルーガ・ゲルマニカは再びの生を歩み始めた。