西暦2097年、地球はかつてない規模の気候変動と海面上昇に苛まれていた。 海面は約2メートル上昇し、東京湾沿岸、バングラデシュ、ベネズエラのデルタ地帯、オランダの沿岸都市など、数億人が暮らしていた地域が水没した 。あるいは、高潮が常襲する危険地帯へと変貌していた。 その結果、全世界の淡水魚の約40%、すなわち約6000種近くが、すでに絶滅するか、個体数の致命的な減少に陥っていた 。かつて多様な命を育み、美しい音と色に満ちていた川は、その輝きを失っていた。 日本の魚類学者、神崎優希は、幼少期の母との悲劇的な経験から淡水フグに深い愛着を抱き、絶滅の危機に瀕するこの魚種を宇宙で保全するという、壮大な夢を追い続けていた 。宇宙ステーション「エデン・ステーション」の人工重力モジュールは貴重な居住空間であったが、その一つが淡水魚の種の保存施設「アクア・ドーム」に割り当てられることになった 。特に、かつて神崎の父が建設に携わった「エデン・ステーション・サイド３」が「アクア・ドーム」に転用されたのである 。

高校1年生の福原彩花、通称「ふく」は、入部したアクア部でフグと出会い、青春の日々が始まる。唯一の先輩・海月透也に導かれ、沢山のフグと出会いながら、成長していくお話。

寺の跡取りとして生まれながら、その宿命から逃れるように都会へ出た青年は、ある日、淡水フグを静かに見つめる女性と出会う。 名も知らぬ彼女が熱心に問い続けた「命の世話」に応えるうちに、彼の心にも静かな変化が訪れる。しかし、突如として彼のもとに託された“願い”は、想像もしなかった重みを伴っていた。 捨てたはずの祈りが、命のバトンとなって再び彼を導いてゆく──。 優しさと喪失、そして再生を描いた静謐な短編小説。

ネットの向こうにいる「敵」は、もしかすると、運命の人だった──。 中学の夏、淡水フグ図鑑を自作し公開した少年・悠虎（フグ虎）は、見知らぬユーザー「夏ふぐ」からの一通の指摘に激昂する。そこから始まったのは、属名、分類、繁殖法に至るまで、何年にもわたる舌戦（レスバ）の応酬だった。 論文と知識で攻める夏ふぐ。実地で繁殖に挑むフグ虎。 互いに「絶対負けたくない」と意地を張りながらも、誰よりもその投稿を待ち、言葉に反応してしまう。 知らず知らずのうちに芽生えていたものは、単なるライバル心ではなかった。 そしてある日、フグたちの飼育を続けられなくなった夏ふぐから、ひとつのメールが届く── 「助けてください。託したいのは、あなたしかいません」 画面の向こうの“敵”が、現実の“君”として目の前に現れたとき、二人の物語は新しい夏を迎える。 これは、フグとレスバが育んだ、ちょっと不器用で眩しい恋のはなし。

１０年前いろんなフグを飼育していました。今になって、あの淡水フグが飼いたくてしょうがありません。