異世界に転移して、十数年──気が付けば何も起きないまま時がたった。 男の名前はエルド。 転移先は前の世界でやり尽くしたゲーム『ゼルクロ』の世界そのものだったが、イベントどころかチュートリアルすら始まらない。 『ただ似てただけか……』 全てを諦め俺は下位冒険者の便利屋として生きていた。 魔法もモンスターも存在する。でも、それは俺の物語の外側の話。 そんな平凡な日々を送っていたある日、いきなり“イベント”は始まった。 出会ったのは、存在しないはずの《バグ》により生まれた少女・アドミナ。 彼女と共に動き出したこの世界は、確かにあの“ゼルクロ”だと実感する。 でも、何かが違う。場所も、仕様も、少しずつズレている。 ──これは本当に“ゼルクロ”の世界なのか？ 分からないなら、確かめるだけだ。 前世でやり残した唯一の後悔、今度こそゼルクロを遊び尽くしてやる── 10年遅れて始まったチュートリアルの、その先へ。 バグヒロインとの、十年越しの異世界攻略物語。 ※投稿後に誤字修正等をしている時があります。

何故か何も無い場所に突然現れた僕。 見たことのない世界。 見たことのない場所。 其処に居たのは一匹の柴犬だった。 柴犬の形をした作家と愚痴と雑談を楽しむ日常である。 ※　９月2日誤字報告ありがとうございます本当に。

　馬鹿な王子によって聖女が婚約破棄され、追放される。その結果、国を守る結界は失われて王国は滅んでしまった。馬鹿な奴らは皆殺しだ。 　追放された聖女様は、隣国の王子に溺愛されて、幸せに暮らしましたとさ。 　そんなありきたりな物語の裏側で、確かに生きた男がいた。 　そんな男の生涯によって、動かされた者達がいた。 これは物語に語られる事すらないとある領主が、己の義務に従って生き、遺された者達に確かに何かを残す物語だ。

はっきり言おう。 エフィは決してこのように令息達に囲まれ取り合いをされるような器量ではない。自分で言うのも虚しいけれど、容姿も中身も取り立てて取り得のない田舎領地の男爵令嬢である。 今の立場が相応しくないものであることは、あのように嫉妬の目を向けられるまでもなく、誰よりも理解していた。 それが何故こんな傾国の姫のような扱いを受けているのかと言えば。それはこの国が聖女に行った仕打ちのため。 偏に彼等の自業自得である。 物語の外側で生きてきた平々凡々な令嬢エフィが幸せになる話。

彼女が自殺した。 何も変わらない。誰も救われない。劇的なことなど一つもない。 既に終わった物語の外側で、僕は彼らの話を聞いた。

そのおじいさんは今日も、小説の中の女性に恋をしている。