人は悩む。まるで悩むために生まれたのかとでも言うように。
苦しみ傷つき夜も眠れないような中で、悩みはある日突然解決する。
他人に忠告されても離れられなかった恋人との別れを決意したり。
理不尽でも必死で働いていた会社に未練がなくなったり。
時間もお金もかけた趣味から手を引いたり。
まるで天啓のような鮮やかさで、わたしたちは前を向く。
それは今日見た青空が澄んでいたからかもしれない。
聴いた音楽が懐メロだったからかもしれない。
嗅いだ柔軟剤が花の香りだったからかもしれない。
あるいは美味しかった昼食が、記憶を呼び覚ましたからかもしれない。
真っ白なシャツにつけてしまったケチャップのシミのような、決して消えることのない記憶を。
心を決めた人間は、意外と穏やかなのだ。
うっすらと笑いながら、彼らは進む。すべてを終わらせるために。