イチオシレビュー一覧

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物語は、ある共通の傾向を多数の人間が携えているということが前提された集団の中でしか成立し得ない、ある意味閉じられた形式のものだ。近代小説はそれを開放したことに意味があり、けれどもそれは、物語へのネグレクトを同時に示し得る。蓮實重彦などその典型で、彼は物語というのは類型化を免れ得ず、これとの不断の闘争を通じてしか真の小説は出てこないと解する。彼の言うことにも一理ある。物語はただ人々を引きずり込むだけで、そこから離反することは罪となり、やがては宗教的熱狂にまで高まりかねないからだ。しかしながら、物語を味わうことは依然として心地良いものであって、この小説の如く、ほとんど淀みなく物語が進行しているのを眺めると殊にそのことを感ずる。この場合、その物語に充てられた執筆時間とは無関係だ。なぜなら物語は執筆される前から既に存在しているのであり、問題はそれがいつ〈一〉として「繋がるか」なのだから。
レビュー作品エボリューション9(≒125)雨宮吾子完結済 / 全15エピソードヒューマンドラマ[文芸]
この世からあの世へと「帰ってきた」魂は一旦「粉々に」されねばならず、バラバラの魂の欠片は、「細胞実験の喩えのように同種同士で集まり再構成され、生き返る」、という話は、プラトンの『パイドン』で語られる魂不死説を思い出させる。後者が、何故それぞれの魂が全てのイデアを知っていて、けれども再生する際にはそれらを忘れてしまうのか、といったことの説明が神話という形でしかなされなかったのに対し、前者はそれに物理学的な説明を与えている、という点が面白い。ハイデッガーの時間的存在についての話も出てきており、それが小説内の、パラドクシカルな世界を暗喩しており、小説の最初と最後に登場する、「白き蓮の花のよう」な女性という一致はしかし、時間の不可逆性への反抗、あるいはトポロジー的試みと解することもできる。さらには神についての問答も出てきたりと、読み手を刺激する要素が多分に含まれている。非常に有意義な小説だ。
レビュー作品空に落ちる晩酌魚短編純文学[文芸]
〈言葉〉の奔流、という形容が相応しい。一つの文章が次の文章を生み出し、そこに書かれてある内容は逆に気後れし、躊躇いつつも文章を後追いするしかないという、劇作家とはまるで反対の手法で書かれている。言葉の力強さ、必然的な連鎖が、あらかじめ構想されたものを前提とした執筆では到底実現されることのない、それこそ自由な世界を形作ることとなる。田中美知太郎の著作にもあったが、自由とは、無法地帯を指すのではなく、他から侵害されていないということ、あるいは他の支配から解放されてあることを本来的に意味する。小説は何かこのような自由を謳歌するための一種の装置であり、この小説では、それが見事に実践されていると言える。読み手はこの奔流に呑み込まれる他なく、これを経験したことで、彼もまた自らの手で言葉を奔流させ始めるだろう。それが〈物語〉ではなく〈歴史〉だと言えば、多少怒られることを免れ得るだろうか。
レビュー作品花火花はじ短編純文学[文芸]
「ぼくは小説というのは(中略)必ず随筆的要素がなければならぬと思う」とは、対談『人間と文学』における中村光夫の発言だ。対談相手である三島由紀夫の、「もし生自体を小説が感じさせることが使命だとすれば、生の偶発性というものを認めなければならない」という言葉もある。『十円玉おじさん』を久しぶりに読み返して、これらの言葉を思い出し、まさにこの小説で実践されていることじゃないかと確信した。数少ない文芸的表現は、装飾としての役割に徹するのみで、見るべきところは、そういう手垢つきの形式の外にある。〈三〉の「もう勤め始めて一月ほどになるが初日から既に嫌になっていて」や、〈九〉の「アビィ・ロードへの行き方をすっかり頭にインプットして」など、およそ随筆的筆遣いがすこぶる面白く、読みやすく、それでいて惹き込まれるという、読んでいて堪らなくなる要素が砂金みたいに散りばめられている。これはおすすめできる。
レビュー作品十円玉おじさん馬郡 一短編ヒューマンドラマ[文芸]
「僕」が間を置いて出会うことになる女性の各存在が、並行世界的なものによるものでないとすれば、〈今〉という時点での〈僕〉が、女性との出会いを果たすそれぞれの「僕」の基盤としてあり、その〈僕〉というのは、決して停止しているわけではなく、小説の最初から最後に至るまでに最低でも百万年という月日が経過しているわけであるが、それがそれぞれの「僕」を存在足らしめているのだ、ということになる。「三本のロウソク」による異次元的な生が、果たして本当に現実的な時間・空間に存在していたのか、それはあるいは既存の記憶による再現でしかないのではないか、という問題は残るものの。
〈僕〉とは何者か。それはあるいは一人格に限らないものなのかもしれない。「僕」はあらゆる時間を生きることができる。多数の人間が「僕」やその志向対象である女性という共通項によって連続的に語られる、というのは、幻想的な試みで面白い。
レビュー作品モノクロの宇宙夏野ほむわ短編現実世界[恋愛]
※この投稿者は退会しています
「本好きの下剋上」から運営のレコメンドを通してたどり着きましたが、「本好き」のような傑作と、こういう小説が並んでいるところがいかにもなろうらしいところです。厳しいことを書きますが、誹謗目的ではなくなおかつ「おすすめ理由」の説明なので、運営にも配慮をいただきたい。40代以上の読書家100人いて、この小説を評価する人はたぶん一人もいないと思います。設定、展開、プロット、ストーリー、文章、あらゆる点で水準に達していません。数値上は人気作ですが作者は相当勉強する必要があると思います。誰よりも、自分自身のために。
しかし逆に言えば、通常の小説評価としては厳しいものになるのに、人気があるのはなぜかを考える必要もあります。
異世界を気軽に旅行するような愉しさがこの小説に無いかと言えば、それはあります。女子中学生が3人集まっておしゃべりしているような罪のない妄想。そういうものとして楽しめばいいと思います。
レビュー作品くまクマ熊ベアーくまなの連載中 / 全907エピソードハイファンタジー[ファンタジー]
若干クセのある文章ながら、日本語の使い方が丁寧で誤字もなく読みやすい。

不器用ながらも、まともな現地人との繋がりは大切にし、敬意を払うべき対象には払い、それでいて自分達に害なす相手には容赦しない。そういう主人公像に好感が持てる。

主人公が初期能力に頼り過ぎなところはマイナス。
たまたま水属性に適正がないのは判明したけど、一通りどの属性に適正があるのかすら調べてない。
図書館で魔法体系や基礎について調べもしないし、自分より上位の魔法使いと知り合っても、そういった質問もしない。
魔力を近接戦闘に流用している友人にも、その辺りの話は一切しないし、自分でも試さない。
強さに貪欲であり、目的の為には力が必要なんだから、やれる事は全部やるべきでは…。

魔石を吸収して成長ってのを前面に出したい作者の気持ちは分かるけど、それ以外で成長出来る要素を意図的に避けてるように見えて違和感がある。今後に期待。
レビュー作品レジェンド神無月 紅連載中 / 全3865エピソードハイファンタジー[ファンタジー]
私が思うweb小説のコンセプトは、ストレスフリーであることだと思います。

しかし、昨今のチートものを読んでいる方が最近はストレスを感じるようになった感覚に覚えはありませんか?

安心してください、この作品はなろうのコンセプトをよく理解し表現されています。

主人公と仲間の会話や展開、私はこの作品を読み終えると何故か不思議な気持ちになりました。

丁寧にじっくりと読んでほしい!
しっかりと作り込まれた世界とキャラクター。

もし、あなたが転生する前の記憶を持っていたとしたら?



アストラルという世界は、転生前の記憶を持つ。
そんな彼らは過去の記憶に翻弄されます。

悩み、立ち止まり、前を向く。



転移した主人公伊津美はこの世界で何を見つけるのか……。

苦しくて辛い過去と現実。
果たしてそれだけなのでしょうか?



キャラクター一人一人に共感し、
彼らの行く末を見守ってみませんか?

私はオススメします。
レビュー作品ASTRAL LEGEND七瀬渚完結済 / 全100エピソードハイファンタジー[ファンタジー]
財宝を目の前にした人々の強欲っぷりが面白い。

宝石の丘という設定されたゴールを題材に、他者を利用し、捨て去り、それでも前へ進む欲と、時折振り返る人間らしさ。
これらは、個々のキャラクターの書き分けがあるからこそ成り立つものである。
強欲の中にも巧妙に希望が残されており、このあたりが日本人向きだろうか。

主人公クレストフの目線で欲望まみれのファンタジーを完結まで読めた至福、作者に心からの感謝をしたい。
序盤から続く伏線の回収、まことに見事でありました。
レビュー作品ノームの終わりなき洞穴【Web版】山鳥はむ連載中 / 全367エピソードハイファンタジー[ファンタジー]