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作者:智有 英土/作品情報/Nコード:N9107KT
連載中 (全1エピソード) |
2025年の夏。沿岸南西域と呼ばれる街に、一つの不穏な予兆が忍び寄っていた。
それは「新型出血熱の疑い」とされる、ごく短い行政放送から始まった。
報道は沈黙し、専門家は口をつぐみ、街にはいつの間にか赤い標識と封鎖線が並び始めた。
人々は最初、これを単なる風評や予防措置だと信じようとした。
しかし、やがて訪れる「十三日目」を迎える頃、街は確かに何かを失いはじめていた。
この封鎖の背後には、五年前に忽然と姿を消した一人の男、疫学研究員・凍鷺夢生(いてさぎ・むう)が残した映像記録があった。
彼は2020年の秋、まだ誰も黒血熱の名を知らない時代に、次の言葉を残していた。
――「黒い八月が来る。
十三日目に兆しが現れる。
この街は数字の中で終わる。」
当初は荒唐無稽な陰謀論として一笑に付されたこの予言は、やがて現実に重なってゆく。
感染は数字に置き換えられ、記録は管理され、公式発表は次々と修正されていく。
「収束」という言葉が繰り返される一方、街には防護服を着た監視員が増え、隔離区域が膨らみ続ける。
そのどこにも、終わりは見えなかった。
記録を追うのは、一人の記者、夜澄エレナ。
行政放送と統計の背後に潜む「計画の設計図」を暴くため、彼女は失踪した凍鷺夢生の足跡を追い始める。
次第に明らかになるのは、この感染が単なる疫病ではなく、支配のために仕組まれた「予定された流行」である可能性。
そして、その全貌を「記録者」と名乗る匿名の存在が監視しているという恐るべき事実だった。
この物語は、感染が拡大するパニック小説ではない。
「封鎖される街で、記憶と記録がどう塗り替えられていくか」を見つめる、ひとつの終末の記録である。
黒血熱の感染経路を、誰が、何のために計画したのか。
行政と報道の沈黙はどこから始まったのか。
そして、予言とも呪いともつかない「黒い八月」の正体は何なのか。
疫病の恐怖だけでなく、情報が封じられ、人間が数字に還されていく過程が描かれる。
終息を告げる放送が流れても、そこにあるのは安堵ではなく、ひとつの問いかけだ。
「あなたがこの先、新しい封鎖の街に出会ったとき、その沈黙に耳を塞ぐのか。それとも声を探すのか。」
記録は未完のまま残されている。
それをどう読むかは、読み手に託されている。
ジャンル:ホラー〔文芸〕キーワード: 残酷な描写あり ネトコン13 123大賞6 夏のホラー2025 現代 サスペンス ディストピア パンデミック 封鎖区域 社会派フィクション 感染症 終末 陰謀 情報統制 予言 未完の記録 最終更新日:2025/07/16 21:11 読了時間:約10分(4,993文字) 週別ユニークユーザ: 100未満 レビュー数: 0件 総合ポイント: 0 pt ブックマーク: 0件 評価人数: 0 人 評価ポイント: 0 pt |
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