中世ファンタジー世界で人々はどのように生活しているのか。
この、言ってみればごくありふれた題材を、現代から転移したコンサルタント経験者の主人公を絡ませることで、説得的かつ魅力的に描き出した労作。
本作の魅力は、著者の入念な調査と弛まぬ努力が作り出す「理路整然とした現実味」だろう。
主人公の目に映し出されるファンタジー世界は、実のところ、概ね私たちにとって理解可能な原理で動いている。それはある意味、現代の鏡像だ。
物事の道理が一つ一つわかりやすく説明され、それらが歯車のように組み合って大局を動かしつつも、他方で枝葉が動かされている。そうした世界が主人公の思考を鏡面にして映し出されるところには、知的な面白さがある。
主人公は熱血漢ではないし、戦いにも強くない。国や会社を乗っ取るドラマティックな下剋上があるわけでもない。
にもかかわらず、読み物として十分に面白い。