時は江戸、舞台は吉原。
苦界の片隅に生きる男女の一場面を切り取った掌編。
この著者の作品はいくつか拝読してきたが、共通する特徴は登場人物達がとにかくカッコイイこと。時代物は珍しいと記憶しているが、今作にもやはりこの特徴は生きている。
醒めた表情の下に、花魁への想いを隠してきた髪結いの男。
その気持ちを受けて、女が見せる花魁としての矜持。
抑制された情景描写が登場人物達の心情に折り重なって、作品をより趣深いものにしている。
二千文字に満たない文字数で、二人の心情を鮮やかに描く著者の筆力、いつものことながら感銘を受けざるを得ない。
静謐な舞台に咲く大輪の華のごとき、花魁の鮮やかな心意気。
貴方もこの場面に、立ち会ってみてください。