とある男を訪ねた記者が一人。
部屋の中には、記者を含めて男が二人だけ。
他には誰もいない。
そこでは、ほとんどの人間が一生のうちに、
一度も体験することはないであろう会話が進んでいく。
いや、正確には、話しているのは一人だけ。
情景描写は、ほとんどない。
しかし、打ちっぱなしのコンクリートの密室に自分も閉じ込められたかのように、息が苦しくなる。
重いタバコの煙が、服にまで染み付きそうだ。
コンクリートの壁もタバコも、本当は描かれていない。
それでも、一度読めば、容易にその光景が浮かび上がる。
作者によって、問答無用で、読者もその空間に放り込まれる。
逃げ出したい。
しかし、足が竦んで動けない。
いや、恐怖よりも好奇心が勝って、動きたくないのかもしれない。