神官の家の男の子十夜くんから、十一歳の萩野が九月の誕生日にもらったのは、紫陽花の箱に入った土の鈴。それは長い時間の果てに、身分違いの想い人と離れ離れになった上古の女性、沙耶葉の想いが籠もった品でした。萩野へのかすかな声を頼りに、二人は沙耶葉の想いを叶えてあげます。二つの鈴を印に惹きあうかのような、王朝時代を偲ばせる哀憐の言葉が切なくも、美しいです。女性が男性を想う「吾が背」はその逞しい背を頼る女性のいじましさを偲ばせるようですし、「吾が妹」は、手弱女を慈しむ益荒男の風姿を思わせるようであります。
移り気な紫陽花の花言葉とは裏腹に、今でも添いたい人を求める、長き想いの鈴は十夜くんの萩野への想いを伝える、何よりのプレゼントではなかったでしょうか。