――神保町の古書店が並ぶ目抜通り。
男はそこの角を一つ曲がり、小路に入った。
雑踏が薄れていくなか、男は一つの骨董店の暖簾を潜った。そこには
『一品物のみ取り扱いして〼』
と書かれてあった。
店主らしき白髪の老人は男を一瞥しただけで、すぐに新聞に視線を落とした。
店内には陶器や象牙らしき置物、舶来物であるかも疑わしい綺麗な硝子細工、どれ一つとして似た物はなかった。
男は一番奥に古箪笥が置かれているのを発見し、その上に置かれている古書らしき本を見つけた。どうやら本はこれだけのようだ。
手に取り中を開いてみると、美しい日本語と切り絵が動いていた。まるで外に出たいと云わんばかりに、震えるように踊っていた。
男は本を閉じ、尖昌石の色をした表紙を見た。そこには
『薬袋古道具屋怪談 壱巻目』
と緋色で書かれていた。
「それ、世界に二つとないよ。生きてるからね」
老人は嬉しそうに言った――