古びた町の外れに建つ一軒家――。大学生の美咲は、祖母の遺した家を整理するため、久しぶりに故郷へ戻る。最初は静かで懐かしい空間だった家だが、夜になると窓の向こうから誰かの囁き声が聞こえてくる。 最初は風の音かと思った。しかし、声は次第に具体的な言葉を発するようになる。「ここから出ていけ」と繰り返す、不気味で低い声。美咲は最初、それを幻聴だと思おうとするが、家の中で見えない存在が動く痕跡が次々に現れ、無視できない事態に。 やがて、祖母の日記や古い写真の中に、不可解な影の存在が映っていることに気づく。影の正体を探るうち、美咲は家に潜む「過去の悲劇」と対峙することになる。家の窓の向こうで囁く声の意味は――ただの恐怖ではなく、解決されぬ怨念の叫びだった。 夜が深まるほど、現実と幻の境界は薄れ、美咲は家から逃げ出すことすら許されなくなる。果たして彼女は、この家の秘密を解き明かし、生き延びることができるのか――。

廣守綾戸　26歳。 ブラック中小企業で営業職に身を置く彼は日々業務に対する鬱憤がたまっていた。 彼の唯一のストレスの発散方法は自作フィギュアの制作だった。 毎日のストレスをただ創作活動に打ち込むことでどうにか心の均衡を保っていた。 しかし、彼がフィギュアに日々込め続けた怨念は遂に呪いというほどの域に達してしまう。 その結果、現世とは異なる魑魅魍魎の跋扈する異界、幽世へと流れ着いてしまう。 そこで出会ったのは、妖艶な女性の鬼、夜叉。 呪いの副作用で綾戸の魂は深く傷ついてしまう。 夜叉の導きにより、魂を癒すため、妖の世界に足を踏み入れることとなる。 妖怪、幽霊、都市伝説。 現世に住まう様々な怪異と時に笑い、時に争い、時に泣く。 綾戸の歩む妖との第二の人生の幕が開ける。

――悪夢は現実を侵蝕する。 人の恐怖と怨念から生まれる怪異――悪鬼《あっき》。 都市伝説や怪談の裏に潜み、夢から現（うつつ）へと滲み出すそれらは、人を喰らう。 そんな悪夢に挑む者たち――夢幻開現師《むげんかいげんし》。 己の悪鬼を従え、異能を具現化し、命を懸けて戦う戦士である。 若き開現師・和泉 百希夜（いずみ ときや）は、仲間と共に怨嗟渦巻く夢の闇を切り裂く。 待ち受けるのは、血と謎に彩られた異能力バトル、心を試す心理戦。 夢と現実の境界は、やがて闇の中で溶けていく。 彼は悪夢の真相に辿り着けるのか――。 ローファンタジー × 異能力バトル × ホラーミステリー × 都市伝説。 あなたは、この悪夢を最後まで見届けられるか。

　中央ヨーロッパのとある国の都市・ベツィールフ州。この街には、濁った魂を持つ人間に憑依し、負のエネルギーを食らった悪魔が実体化するという事象が起き続けていた。その悪魔を祓い、憑依された人を救う「使徒」と呼ばれる者たちは、人々にヒーローのように慕われていた。 　ある日、使徒と悪魔の戦いに遭遇したペトロは、使徒のリーダーのユダに仲間になってほしいと誘われる。なれる条件は「トラウマを持っていること」で、使徒はそれを力に変えて戦っていた。自身のトラウマを自覚するペトロは、使徒になることを決意する。 　一員となったペトロは、仲間たちと共同生活を始める。彼らは企業の商品イメージキャラクターも生業にしていて、記憶喪失でありながら事務所を立ち上げたユダのサポートで、ペトロも使徒とモデルの二足のわらじを始める。ペトロに恋愛感情を抱き、優しく接するユダ。そんな彼に、ペトロも次第に心を開いていくが……。 　ある時、悪魔とは違う存在が現れる。その名は、この世に彷徨う怨念の集合体『死徒』。『ゴエティア』という悪魔を使役する死徒との戦いは、使徒のトラウマを呼び起こし、精神を脅かす。最初の餌食となったペトロだが、唯一無二のパートナー「バンデ」となったユダに支えられて困難を乗り越え、ユダの思いも受け止め恋人となる。 　他の使徒のヨハネたちも同様に狙われるが、その目的は『ホーローカウスト』の邪魔となる使徒を堕とすこと。だが、バンデに支えられながら自身のトラウマと戦い、彼らも強くなっていく。そしてこの熾烈な戦いは、ユダとペトロの運命を動かし始める。 　ユダの記憶喪失と関係する、彼に課せられていた“宿命”と死徒との“因縁”。それは、先祖の過ちを償うための“責務”。記憶が戻りそれが明らかとなった時、選択を迫られたユダとペトロたちの道は分かたれることに……。 　やがて『ホーローカウスト』発動の時が迫り、使徒は計画阻止のために死徒との最後の戦いへ。そしてペトロは、ユダ奪還に動き出す。死闘の中で突き付けられる死徒たちの思いに、使徒は本来自分たちがするべき“救う戦い”を選ぶ。ユダを奪還するペトロも、二人で死徒の統括・怨嗟のマタイを救うために戦うが、そこには“最後の敵”が……！ 　果たして使徒は、亡き者たちの思いを受け止め、未来を守れるのか。 　そして。この世界はいったい誰のせいなのか。

大学非常勤講師にして古書店「白夜堂」の店主・北条恭介。 かつて海難事故で孤島に漂着し、祠を暴いたその夜――祟り神〈彼〉を身に宿した。 以来、怪異に触れるたび、頭痛と記憶の空白が彼を蝕む。 理性と衝動、現実と異界の狭間で、恭介は封印された真実を追う。 祟りの連鎖を断ち切るために。 恭介がロジックで謎を解き、裏人格がフィジカルで突破する—— “二重解決”で怪異を征服する快感を描きます。 後々、単なる恐怖に留まらないエモーショナルな展開を予定しています。

約八百年前———互いの領域をエムクリング山脈に分断された人族と魔族は戦争を行っていた。 空気中に含まれる魔素濃度が高い領土に住む人類は、適応する為に角が生え肌色も変わり、様々な姿へ進化した。 その心にあったのは、この地に追いやった同種への怒りや怨念。やがて一人の大魔王が火蓋を切り領土戦争が始まった。 後の世に語られる【——人魔大戦】である。 人族も大魔王の存在を嗅ぎ付けると、古い遺跡から発掘した魔方陣を用い”勇者召喚”を実施した。 先陣を切る勇者の戦闘力は凄まじく、次々と魔族をその手で斬り倒し、ついに大魔王の首に届くところまでに迫る。 勝者は、人族だった。 再び魔族をエムクリング山脈の向こうへ押し込め、互いに不可侵の誓いを立て関所も設けた。 それから幾星霜の月日が継ぎ去り……、八百年後———。 魔族領との小競り合いが増えて来た事。魔物の活発化。そして、聖女の神託を受けた人族は再び”勇者招喚”を行う事を決めた。 今度は条件付けをして、目的を果たせば元の世界へ帰還出来るよう調整してある。 呼び掛けに応え姿を現した勇者。 しかし、この物語はまだ始まっていない。本当の始まりは、勇者が現れてから後日に突如現れた別の青年が意識を取り戻した瞬間に始まったのだ。

世界歴１９６年３月 ヨレン王国 霧と共に現れ、霧と共に消える謎の城「島船」。 それを追い世界を旅する男、ショール・クラン。南大陸セムカでの３年にも及ぶ過酷な旅路の果て、彼が帰還したのは、古の魔法と王統を受け継ぐ地、ヨレン王国だった。 西方文明の源流、古代エルゲの末裔が治めるその国に、ショールを導くかのように「島船」は現れる。場所は「青灰の湖」――王国の禁足地とされてきた、呪われし地。伝説の「クレトスの青銅巨人」が眠る場所だった。 王国に潜む昏きものたちが動き出す。太古よりこの地を蝕む怨念と、ショール自身の過去から伸びる宿敵の影。ヨレンの若き聖戦士たちと共に、ショールは太古の時代から続く大いなる呪いに、立ち向かうことになる。 ・このシリーズは、「カクヨム」でも掲載しています。

Hell side 2章（全体あらすじ） 所長に導かれ、三弥栄は「ゼロ階」へ降り立つ。そこは集合的無意識が交錯する精神の平野――OK牧場。現れたナイスガイは怨念と死闘を繰り広げ、強大な「力」を示すが、同時に深刻な負傷を負う。その傷を救護室で回復させたのは、女医のコスプレをするH2B。彼女の異能は「壊して治す」回復術であった。三弥栄はここで初めて、地獄へ道連れ＝力を得る通過儀礼 の現実を突きつけられる。

　神山市内でフリー編集者として活動する私は、地元ネットで囁かれる「神塩線の原因不明の電波障害」の調査を開始する。 　神山市の地図を分析していた私は、ある恐ろしい法則を発見する。神山城を中心として三つの神社が正三角形を形成しているのだ。 　私は神社の建立について調べた。 　当初、神山城を囲うように「正三角形」の位置に三つの神社が建立されていた。しかし、その後、水害に見舞われる。そこで人柱のお松が犠牲になる。城の安寧のため人柱とされたお松の悲劇的な「怨念」を城主は恐れる。そこで、さらに三つの神社を「逆三角形」の位置に建立し、お松の怨念から城下を防ぐための完全な「六芒星の結界」を完成させた。結界の真の目的は、城の守護ではなくお松の怨念が城下へ流入するのを防ぐことにあったのだ。 1. 亀裂（1914年・神塩線）: 神塩線の敷設が、六芒星に縦に亀裂を入れることになる。しかし、結界内の一部であり、結界を断裂するまでではかった。 2. 分断と拡散（1975年・神陽新幹線） 神陽新幹線という「鉄の龍」が開通し、六芒星の中心を完全に横に分断。 　砕けた六芒星はもはや怨念を封じる力を持たない。次の人柱を求めるお松の怨念は、既に神塩線に乗って神山を巡り、さらに神陽新幹線に乗って全国へと流出し始めている。鉄の龍は、日本中から新たな「生贄の情念」を探し続けているのだ。 　あなたの最寄り駅はこれらの配置になっていないかご確認ください。

　東北の旧家・九天家には、代々「座敷わらし」が住まうと伝えられていた。人々はその小さな守り神の存在を信じ、家の繁栄は彼らの加護によるものと信じて疑わなかった。 　しかしある夜、当主の孫・九天恭平が帰郷したその瞬間、長年家を守ってきた座敷わらしの無残な死体が離れ座敷で発見される。現場には血塗れの畳、粉々に砕かれた鏡、そして座敷わらしのものではない大人の足跡が――。 　やがて、恭平はこの家に隠された恐ろしい秘密に辿り着く。九天家の繁栄は、守り神の力によるものではなく、誰かの犠牲と罪によって築かれたものだったのだ。座敷わらしの死は、家に潜む闇の真実を暴く前触れにすぎず、その怨念は決して消えることはない。

人の怨念、執念、あるいは全く偶発的に生まれる異形の存在「妖魔」 妖魔と異なり、人の形を保ちながらも、人外の力を手にした異端の存在「鬼」 世界の各地に存在し、この世で最も繁栄している生物「人間」 常に争い、時に協力し、三者は古来より生存を続けて来た。 これはそんな国を生きる者達の歩んだ戦いの軌跡。血族との因縁、親友との約束、復讐者の葛藤。 様々な思いを胸に秘め、他者を殺し、時に救い、共に愛し、譲れない何かの為に戦う者達の、ありきたりな英雄譚。 ※こちらの作品はpixiv様とカクヨム様の方にも投稿しております。

　女の子との飲み会で、めいっぱいはしゃいだ帰り道──。 　夜道を歩いていると、街灯が突然明滅する。 　幽霊に遭遇する男だが──。 「……どしたん。池にでもハマったん？　水も滴るいい女ーいうことかいな。ほんまに滴らせんでもええやろ」 ◆ 一話完結。幽霊V.S.軽薄な男。 怨念と軽妙さが交錯するホラー掌編。 2025.10.9執筆。

復讐を「経費」にした男の末路。未来永劫、解約できない悪意のサブスクリプション 憎き上司のシバタ部長にキャリアを破壊されたサラリーマン、タカシ。復讐の総額700万円はあまりにも高額で、その憎しみの価値を一括で精算することに抵抗があった。 そんなタカシの目に飛び込んできたのは、ウェブの端に光る蛍光グリーンの文字。『RRS（リベンジ・サブスクリプション）：あなたの平穏を、定額で維持します。月額20万円より。』 タカシは迷わずプレミアムプラン（月額40万円）に加入。これは憎しみを合理的な「経費」へと格下げし、「未来の不安」をカバーする保険だと自身に言い聞かせた。システムは優秀で、シバタは静かに会社を去り、タカシはその席へ昇進。憎しみは消え、平穏を手に入れたかに見えた。 しかし、RRSはタカシから**「自分の努力で平穏を得た」という自己肯定感を奪い去った。彼は無意識に、かつてシバタが抱えていた非現実的なプレッシャーとストレスを、部下のコウジ**に転嫁し始める。 コウジの目には、かつてのタカシと同じ追い詰められた怨念が宿っていた。コウジもまた、タカシの理不尽な叱責と、非効率な「人間的な謝罪」を待つことを嫌い、SNSで見つけたRRSの広告をクリックする。彼は最下位プラン（月額8万円）に契約し、タカシを「システムによる確実で論理的な排除」によって証明しようとする。 タカシは良心からコウジに謝罪しようと会議室のドアノブに手をかけた瞬間、二人の契約したRRSの中央サーバーが同時に作動した。コウジのシステムがタカシの不正を拡散。タカシのシステムがコウジの行動を「キャリアの不利益」として検知し、コウジを標的にロックオン。 社内のサーバーラックが悲鳴を上げたような轟音とともに、二人のスマホには**「標的排除措置を完了。平穏を維持しました」**という無感情な通知が届く。 タカシは、自分が払い続けた高額な費用が、後輩の攻撃と相殺され、お互いの破滅という悪意の連鎖を最も効率的に行うための、自動更新された因果応報のシステム維持費にしかなっていなかったことを悟る。 謝罪も反省も、システムには微塵も考慮されない。彼らが求めた「論理的な解」は、費用対効果に優れた相互破壊だった。 ポケットで静かに鳴る次月の引き落とし通知。 その「論理的な解」は、永遠に払い続ける。

桜が舞い散る春、普通の高校生・隼人は学校の東棟三階男子トイレで不可解な怪異に遭遇する。誰もいないはずの個室の扉をノックする冷たい指の感触に、仲間たちも同じ恐怖を味わっていた。 真実を求める隼人は、オカルトに詳しい秀と、霊感を持つ美優とともに「新霊体験隊」を結成。学校に潜む怨念の正体を調査し始めるが、過去に起きた連続不審死事件や、二人の霊の争いという忌まわしい真実に巻き込まれていく。 やがて彼らは、霊たちの悲しみを鎮めるため、未完成の楽譜と笛を手に取る。鎮魂歌が響き渡るとき、長く閉ざされていた秘密と友情の物語が紐解かれていく――。 しかし、彼らの戦いはまだ終わらない。新たな事件の影が、静かに三人に迫っていた。

「昭和」な物語。大手新聞社の支局に配属された新米女性記者が遭遇する奇妙な事件。死者の「怨念」を感じるという少年に振り回されながら、真相に迫っていく姿を描く。第１話は崖下で発見された女性の腐乱死体をめぐる人々の物語。遺体描写がありますので苦手な方は読まないでください。ライトな性描写もあります。R-15が妥当かと思います。

隆盛を極めた古代の王国は、次元の壁を開いて現れた邪神とその眷属たる闇の軍勢によって滅ぼされた。 善なる神々とその使徒達は長き戦いの末に邪神を封印したものの、自らも多くの力を失った。 生き残った人々は邪神との戦争、外神戦争で活躍した英雄達を王として国を作り、かつての隆盛を夢見て広大な荒れ地の開拓を始める。 外神戦争より３００年。 エルフに育てられた猟師の青年ベンウッドは、師であり養父でもあるエルフの賢者イシリオンの言いつけにより、成人の日を境にエルフの森から人の街へ移り住んだ 森での生活に未練を残すベンウッドだが、エルフの住む深い森において自身が異物であることも理解していた。 森への想いを引きずりながらも街に馴染もうとするベンウッドは、やがて人々の怨念にからめとられ、古い戦争に起因する争いに巻き込まれていく。

三国蓮二（みくにれんじ）には秘密があった。 それは人には見えない呪怨という怨念が織り混ざって生まれた化け物が見えて、それらを殺すことができるということ。 子供の頃、呪怨に両親を殺されてからというもの。蓮二は呪怨を倒し続けている。 普段は探偵（というなの何でも屋）をこなしており、助手の愛川七瀬（あいかわななせ）が常に仕事をサポートしてくれていた。 平穏でない日常での唯一の癒しは幼馴染の青園美礼（あおぞのみれい）。 彼女の存在が蓮二と現実を結びつけている。 だがある日、美礼から死臭を嗅ぎ取った蓮二は苦悩する。

かつて賑やかだった町の外れに、誰も近づかなくなった古い校舎がある。 夜な夜なそこからは、誰のものとも知れぬ 声 が響くと噂されていた。 主人公・安藤凛は、偶然その声を耳にしたことから、忘れ去られた者たちの「記憶」と「死」に触れていく。 それは単なる心霊現象ではなく、この町に潜む過去の惨劇と、人々が無意識に目を背けてきた「罪」を暴き出す連鎖の始まりだった。 次々と仲間たちは怪異に飲み込まれ、声を残して消えていく。 残酷で無慈悲な死は、彼らの心の奥底にある「後悔」を形に変えたものだった。 なぜ声は残るのか。 なぜ忘れられるのか。 そして最後に凛自身が耳にする声は――。 記憶と怨念が絡み合う中、物語はやがて避けられぬ結末へと収束していく。

　昭和初期のある金持ちが小説家として有名になりたいと思った。でも、その金持ちには小説を書く才能などなかった。そこで、その金持ちは、村野正一という無名の作家に代筆を依頼し、村野が書いた小説を自分の作品として発表した。村野は、今で言うゴーストライターだった。　 　村野が書いた小説は、読者に絶賛され、とてもよく売れた。おかげでその金持ちは一躍、文豪として文壇に躍り出た。 　しかし、村野正一はいつまでたっても無名のゴーストライターのままだった。それどころか、その似非文豪は、有名になればなるほど村野正一のことを疎ましく思うようになり、ついにはヤクザ者を雇って村野を抹殺しようと企てた。 　その似非文豪は、自分の小説が本当は他人に金を払って書かせたものだということを世間に知られるのを恐れたのだ。 　似非文豪が雇ったヤクザ者は、村野を妻の千代ともども抹殺するため、村野の家に油をかけ、火を放った。村野正一は、命からがら逃げ延びたが、妻の千代は顔に大やけどを負い、ふためと見られぬ醜い顔になった。 　最愛の妻であり、また、稀に見る美女だった妻の顔を醜く焼かれた村野正一は、その似非文豪のことを恨み、憎んだ。そして、全身全霊の恨みと憎しみを込めて一作の小説を書き上げた。怨念の塊のような小説『ドグド・ニダラ』である。 　『ドクド・ニダラは』、小説としては最高の作品だった。しかし、その文面には、村野正一の恨みと憎しみが込められていたため、その小説を読んだ読者の多くは精神に異常をきたした。その結果、日本の精神病患者は急増し、精神病院に収容しきれないほどの数になった。　 　発狂した患者の多くが『ドグド・ニダラ』の読者であることを知った当時の特高警察は、『ドグド・ニダラ』を発禁とし、日本中の警察官を動員して市場に出回っている『ドグド・ニダラ』を回収した。既に『ドグド・ニダラ』を購入している読者の家にも家宅捜索に入り、それを没収した。 　その狂気の発禁本『ドグド・ニダラ』の最後の一冊が阪奈教育大学文学部英文科の翻訳研究会の書棚から見つかった。 　そして、『ドグド・ニダラ』は、翻訳研究会の課題図書として学生によって回し読みされた。『ドグド・ニダラ』の狂気は、７７年の歳月を経て、再び恐ろしい猟奇事件を巻き起こす。

学生時代の凄惨ないじめが、一人の男の人生を歪めた。 彼は涙を流す代わりに、受けた屈辱の全てをノートに記録し続けた。いつ、どこで、誰に、何をされたか。相手の表情、声色、その日の天気まで。長きにわたり、憎悪と怨念だけが、彼の生きる糧だった。 両親が亡くなり、天涯孤独となった男は、刻々と準備を進め、ついに復讐を開始する。 それは、決して感情に任せた暴力ではない。長年の観測と記録に基づいた、冷徹で陰湿な計画。ターゲットとなった者たちは、事故やトラブルを装った工作によって、その幸福な日常を、家族ごと、静かに、確実に破壊されていく。 そして、人間としての復讐を終えた男は、自らの命と引き換えに、人ならざる「鬼神」へと変貌を遂げる。 死してなお続く、本当の復讐。 かつて彼を嘲笑った者、見て見ぬふりをした者……あの教室にいた全ての罪人に、もはや逃れる術はない。 これは正義の物語ではない。一人の人間の魂が、この世の不条理の果てに、呪いの伝説と化すまでの、戦慄の記録である。 ※「カクヨム」「caita」でも掲載しています。