方向音痴のOLかおる。彼女は仕事中に異世界へと連れ去られ、そこで『次の王の妃となる』という予言を受けた姫君のために奔走する羽目になる。完結済み。
構成要素はキラキラした恋愛ファンタジーなのだが、可愛らしいデコレーションに騙されてはいけない。華やかな外見にシビアな毒が隠されているのがこの作品の油断ならないところ。
潔癖症魔導士に放蕩王子、偏愛の騎士やワガママ放題の聖女――めんどくさいことこの上ない登場人物たちは誰もが深いコンプレックスを抱え、それを埋めるように激しく他者を求めている。想いの強さゆえに道に迷った彼らを、方向音痴なヒロインは導くことができるだろうか。絡まった糸を解いた先で、姫君が選ぶ『次の王』とは――。
語り口は軽妙かつ鋭く、文章力の高さが感じられる。差し挟まれる閑話は特に秀逸。甘いお菓子に投影された苦い心理が心に刺さる。
大人の女性にこそ楽しんでもらいたいファンタジーだ。